海の史劇

出張の行き帰りの7時間あまりの電車の中に
前から、少しづつ読んでた「海の史劇」を持ち込んだ。
そして残り20ページくらい残ってたのを昨夜読み終えた。
久しぶりの吉村昭の作品。
日露戦争の話だがさすがに良く調べてある。
史実に基づく小説と言うのは資料集めと分析が本当に大変だなと改めて思った。

海の史劇 (新潮文庫)

海の史劇 (新潮文庫)

日本海や旧満州地区での戦いにことごとく敗れた大国ロシアは
主力艦隊を送り一気に戦局の逆転を狙った。
大西洋からはるばる喜望峰を回る一隊と、スエズ運河を通る一隊に別れ
インド洋、東シナ海を通る当時としては大航海をしての日本海への航路。
出航すぐから、日本の水雷艇(実際は1台も存在しないのに、諜報活動に騙され)
の攻撃におびえながら、暑さと病気とも戦いようやくの思いで日本海に至る。
日本は、大国との戦いに金を使い果たしもう最後の決戦にしないと後がない。
しかし各地で諜報員や海外在住の日本人が目にする大艦隊はあまりにも凄く
日本人はその姿に恐れおののく。
世界の各国も日本が徹底的に敗れると予想した。
日本海海戦に一方的に勝利した日本は講和条約を有利に進めようとするが
ロシアはそれを認めず、後がない日本は戦争を終わらせるために譲渡を余儀なくされる。
この講和会議のやりとりは、同じく吉村昭の「ポーツマスの旗」で前に読んだ。
この小説で意外だったのは、乃木希典東郷平八郎の扱い方、真実は解らないが
吉村昭は乃木は無能で東郷は素晴らしい戦略家と描いている。
乃木は西南の役の際軍旗を奪われてそれを最後まで悔い明治天皇の死の時殉死した人間として、
世間では英雄視されている。
この後、日本は第一次世界大戦、そして破滅の太平洋戦争へと進んでいく
日露戦争の際にも政府首脳や軍の上層部は戦争を長引かせると勝ち目はないと早く終わらせることを考えていたが、勝ち戦に浮かれる大衆と軍の強硬派を抑える事が出来なかった、
これは太平洋戦争の開戦当初と同じだ。同じ事を繰り返している。
太平洋戦争に敗れた日本は戦争を放棄したが、世界では未だに紛争が続いている
戦争をして得るものなど何もないと言うことを、早く人類は覚らないと破滅の日は必ずやってくる。
そんな事をもう故人になったが吉村昭さんは言いたいのかもしれない。
戦争だけではないかもしれないが・・