喜久井町物語その1

東京に行って初めての一人暮らしを始めた町、新宿区喜久井町

地下鉄東西線早稲田駅から夏目坂(当時そんな名前が有ったかどうか知らない)を登ると途中で右手に早稲田大学の文学部校舎が有る坂を登り詰めた所が喜久井町

初めてここに来たのはどこから乗ったのかは覚えてないが東京生まれの従妹に連れられて都電13番線の牛込柳町で電車を降りた。降りようとしたら車掌に切符を見せろと言われたその時従妹が先に二人分渡しただろうと怒ったのを今も覚えている。

柳町から坂を上り反対側地下鉄の早稲田駅まで行く。そこが父の遠縁の家なんと夏目漱石の生誕の家と標石が有った。その家もアパートをやってたが生憎空き部屋が無いので近くに知り合いのアパートが有るからと紹介されたのが喜久井町のアパート。そこまで勉強に必要だろうと机をもらって担いで歩いて行った。大家さんはお店をやってた食料品や生活用品など何でも売ってる店。向かいの部屋にやはり大学浪人の学生がいると言われた。山口県岩国出身の同い年の学生一年間一緒にいて色々有った。彼も翌年立教大学に受かって喜んでた。しかしそれっきり今まで一度も会って無い。
たった一年間しかいなかったアパートだが色んな事が有った。

その話はまたにするが、30年以上経った時、東京に出張した際暇ができたので懐かしくて寄ってみた。自分が住んでた時もボロアパートだったが何とまだ残ってた。しかし店は無く大家さん一家はどうされたたのかは分からなかった。最後にアパートを出る時大家さんは車を出してくれて次の住処の小金井の学生寮まで荷物を運んでくれた。東京でも色んな人に世話になったがどこにも何の恩返しもしてない。
たった一年間の喜久井町だったが人生の中でこの一年間が忘れられない。